レ・ヴァン・フランセのポール・メイエ(クラリネット)のインタビューがとどきました!

いよいよ3月に、5年ぶりの来日ツアーを予定するレ・ヴァン・フランセ。
ツアーに先駆け、メンバーの一人、ポール・メイエ(クラリネット)のインタビューをご紹介します。


Q こんにちは、メイエさん。2020年にはコロナ禍でレ・ヴァン・フランセのツアーが中止になってしまいましたが、今回ついに日本に来ていただきます。

本当に嬉しいです。この時をずっと待っていました。ついに日本に行けるんです!

 

Q まず、今回の演目に関して質問です。エリック・タンギー氏の新作について、お話を聞かせてください。

はい。実はこの曲はまだ聴衆の前で演奏していないので、メンバー以外まだ誰も聴いたことがないのですよ。エリック・タンギー氏の作品は現代作品ですが、難解ではありません。
どちらかと言うとクラシック寄りです。きっと聴衆の皆さんは「この曲は好きだな。」と感じてくださるはずです。
ひと口に「現代音楽」と言っても、いろいろなスタイルがあります。
タンギー氏の新作は「新様式のコンテンポラリー」だと思います。それ以前の現代音楽とは、作曲様式に変化が感じられますね。
実は私は、音楽院時代から常に現代音楽に触れてきていて、タンギー氏だけでなく、ピエール・ブーレーズ、オリヴィエ・メシアンなど様々なスタイルに馴染んでいます。

 

Q 作曲は、レ・ヴァン・フランセがタンギー氏に創作を依頼しましたか?

はい。発案者はピアノのエリック・ル・サージュです。他のメンバーも全員、エリック・タンギーのことは何年も前から知っていました。
フルートのエマニュエル・パユも彼と親交が深かったですし。私も彼の作品を演奏したことがありました。
日本でも、酒井健治さんに新作をお願いしたことがありますが、メンバーがすでに作曲家と交流があると自然に、曲をお願いする流れになります。
作曲家のほうにも「このメンバーにはこんな曲がいいのではないかな。」とすでにイメージが湧いていることが多いのです。
ただ、初演がレ・ヴァン・フランセによるものであっても、その後楽曲が評価されて、多くの演奏家が関心を持って演奏してくれることが、とても大切な目的です!

 

Qツアーの演目を決める際に、基準にすることは?

まずは「演奏したい!」と感じる曲を選んでいます。そのうえで、考慮すべきことを考えます。例えば、演奏時間の長短。聴衆がいま、それを聴きたいのかどうか。
主催者からのアドバイスにも耳を傾けますよ。でもやはりいつでも、その曲を演奏したい、誰かに聴いてもらいたい、そういう思いこそが、最も確かな基準です。

 

Q レ・ヴァン・フランセのメンバーは、それぞれの楽器でいわば「フランス音楽のスペシャリスト」です。
 フランスの音楽の魅力、特色とは?

色彩感が溢れていることでしょうか。フランス音楽の最大の特徴と言える点は「健やかにユーモラス」であることかな。感情や感覚の繊細な表現に溢れています。
でもその感情は、豊かでありながらも、ストレートに強く押し出されるわけではないのです。
例えばドイツ・ロマン派の音楽、ロシア音楽には、魂の苦悩の表現が大事な要素ですけれども、フランス人がそれを表す場合は、あえて「ちょっと抑え気味」ですよね。
そういった意味で、フランスと日本は近いところがあると思っています。フランスには若干の「引き」、謙虚さのような、そういう個性があります。
見方によっては「礼儀」とか「愛嬌」でもある。そこが「味」です。

 

Q 次の質問は、レ・ヴァン・フランセの活動についてです。室内楽という分野で20年以上も活動を継続するという、その成功の鍵は?

鍵はいくつかあります。大きな熱意で臨んでいる事に加えて、どの楽器にも最高の演奏者が集まっていること。
そのそれぞれが、ソロ活動や、独自の音楽活動をしています。
レ・ヴァン・フランセで集う時、それぞれが、他の場所で培った新しい体験を持ってくるのです。
それをまた、全員が分かち合う。分かち合うためにまた集まる、と言っても良いくらい。
ここで鍵は何かというと、そんな混合部隊をどうすれば上手にまとめられるかということ。
メンバーがその都度持ち寄ってできるもの、それは膨大で素晴らしい経験の塊なのです。
ただ定期的に集まって、いつもの演目を繰り返すという平坦な活動ではなくて、私たちは常に新しさを求めたいのです。
一緒に仕事したい、お互いを尊敬して「すごいじゃないか!」と新鮮な心で言い合いたい。究極の成功の「鍵」は、そこかも知れません。
仕事の場で仲間への尊敬、優れた成果や過程への感嘆を表すことは、とても大事です。
さらに、もっと基本的なことは友情。レ・ヴァン・フランセのメンバーはみな、私にとってはもはや仕事仲間を超えて友人です。
とても長い付き合いになりましたね。

 

Q 木管五重奏の場合、それぞれの演奏者や楽器に、特徴的な役割はありますか?

まず楽器として考えれば、フルートには鋭い高い音を出す、という役割があります。
オーボエも高めでクラリネットほど低い音域までは下がらず、音で言えば単純に高低差での役割があります。
ホルンは音の響きそのものが違いますよね。木管アンサンブルの場合、忘れてはならないのは、楽器が同じファミリーでも、個性が違うということ。それぞれに色合いが違います。
声楽曲に例えると、男声のバス、バリトン、テノールがあって、女声のアルト、ソプラノがあってこそ、音楽の全体が成り立っていますよね。
木管アンサンブルの楽器の音も「音」なのではなくて、「声」と思って聴いてくださいね。

 

Q 室内楽のレパートリーに詳しくない人がコンサートに来る場合、もし事前に何かアドバイスをするとしたら?

室内楽の良さ、つまり、大規模なオーケストラの場合と異なる点は、ひとつひとつの楽器の「声」が際立ってつかみやすいことです。
楽器と楽器が対話をしている音楽、と言ってもいい。声のやりとり。問いかけて、応えている音楽です。

 

Qプロの音楽家を目指す若い演奏家に、一番大事なアドバイスを送るとしたら?

ああ、その答えは簡単で、ひとつです:「たくさん練習してください。」
私も、いつも自分にそう言っています。練習は欠かしませんし、あきらめません。これで良いかな、と思った後に、また繰り返します。
何度でも、いつまでも。そして、毎日。

 

Q この3年間のパンデミックで、どんな苦労がありましたか?

まず日々の社会生活そのものに、どういう見通しを立てたらいいのかわからなくなり、パニックになりました。文化的な催事も音楽のコンサートも禁止。
私だけではありません、全ての人たちにとってきわめて困難な期間だったでしょう。
若い世代にとってはさらに大変だっただろうと。コンサートができない、当然収入が途絶える。
演奏家のみならず、企画を主催する皆さんにとって、試練だったと思います。

 

Q 最後の質問です。メンバー全員が多忙な中で、レ・ヴァン・フランセがコンスタントに演奏レベルをキープし、常に高評価を得ていることは、大変な功績です。
レベルとリズムを保つための心意気は、どこから生まれるものですか?

「満足しない」ことでしょうか。もっと上手に演奏したい、より良い音があるはずだ、と信じるのです。
それによって、上達できるのです。永遠に。

仕事を続けることで、自分はより強くなれる。良い結果が生まれる。それを見たい、欲しい、と思うこと。
「止まらない。続ける。」というのは、私にとって生きることそのものです。

私はいまだに「ああ、到達できた。」と感じられません。どんなに練習しても、演奏しても、まだ学生なのです。
勉強するぞ、もっと演奏するぞ!と。そうすることで、コンスタントに上達していきます。それが喜びです。
とてもシンプルなことです。

また健康は、すべての基本です。音楽家に限らず、全ての人にとって。
自分が健康であることについて、なんて素晴らしいのだろう、と感謝しています。
人生の大きな幸運です。健康であればこそ、心が自然と「もっと良く生きよう、仕事をしよう。」と欲するものです。

生きることは喜びに満ちています。
「アンサンブル」というフランス語は「一緒に」という意味です。
集い、一緒に過ごす喜び。仲間たちと、聴衆の方々と再会する喜び。
いつか行った土地にまた足を運ぶ喜び、日本に行く喜び・・・そして音楽の喜び。

小さな子供の心で、穢れのない新鮮な目で、世界を発見したいです。
演奏した曲の他に、自分のまだ知らないどのような曲が、世界にあるのだろう? どんな音楽家にこれから出会えるのだろう?

自身が選んだ大好きな職業、「音楽」が、すべての発見をもたらしてくれます。
そしてそんな発見をずっとつなげていきたい。私の心の奥の想いです。

今日までまだ、ただの一度も、「これでもう、この曲はやり切った、すっかり理解した、だからもうお終いにしよう。」と思ったことはありません。
もっとできそうだ!と思うのです。


Qその思いこそが、ひとつの才能なのでは?

そうかもしれません!そしてそれは、「才能」であると同時に「幸運」なのだ、と申し上げましょう。

– 終 –

 

公演情報はこちら

3月11日(土)15:00 開演  神奈川県立音楽堂

レ・ヴァン・フランセ

©wildundleise. de Georg Thum 2014

 

 

2022-23 音楽堂ヘリテージ・コンサート

神奈川県立音楽堂は、1954年に日本初の本格的な公立音楽ホールとして開館し、モダニズム建築の巨匠、前川國男の傑作といわれる建物と、「木のホール」の美しい音響ともに愛されてきました。開館当初の「特別演奏会」から2000年代にスタートした「ヴィルトゥオーゾ・シリーズ」まで様々なコンサートシリーズに世界的名手たちが名演奏を残し、2021年神奈川県指定重要文化財(建造物)に指定されました。時をおうごとに「リビング・ヘリテージ(生きた遺産)」としてその存在感はますます増しています。「音楽堂ヘリテージ・コンサート」はその脈々たる流れをくみ、名手たちによる音楽の真髄をお届けします。未来へ継承すべき人類の至宝(ヘリテージ)といえる名演奏の輝きをお楽しみください。